日本でも過去に中国の無人偵察用気球か 鹿児島 宮城 青森などで

防衛省は2月14日夜、過去に日本の上空で目撃された気球型の飛行物体について、「中国が飛行させた無人偵察用気球であると強く推定される」と発表しました。
中国政府に対して、今後このような事態が生じないよう強く求めるとともに領空侵犯は断じて受け入れられないことを申し入れたということです。

防衛省によりますと、気球型の飛行物体は、国内では、
▽2019年11月に鹿児島県薩摩川内市などで、
▽2020年6月に仙台市などで
▽2021年9月に青森県八戸市などで確認されているほか、
▽2022年1月には海上自衛隊の哨戒機が九州西方の公海上で所属不明の気球を確認していたということです。

これについて防衛省は14日夜、「2019年11月と2020年6月、それに2021年9月のものを含め、過去に日本の領空内で確認されていた気球型の飛行物体について、分析を重ねた結果、中国が飛行させた無人偵察用気球であると強く推定されると判断した」と発表しました。

防衛省関係者によりますと、このうち一部については中国の気球の可能性があるとみて分析を進めていたところ、アメリカ軍が今月4日に撃墜した中国の気球についてアメリカ側から情報が寄せられ、総合的に分析した結果、今回の判断に至ったということです。

防衛省は、外交ルートを通じて、中国政府に対して、事実関係の確認を求め、今後このような事態が生じないよう強く求めるとともに、外国の無人偵察用気球などによる領空侵犯は断じて受け入れられないことを申し入れたということです。

防衛省は「気球であっても、わが国の許可なく領空に侵入すれば、領空侵犯となることから、今後とも、外国政府の無人偵察用気球を含め、気球に対して、これまで以上に情報収集・警戒監視に努めていく」としています。

撃墜した中国の気球 アメリカ軍がセンサーなど回収 解析へ

アメリカ国防総省は、アメリカ軍が南部サウスカロライナ州の沖合で撃墜した中国の気球について、回収した残骸を輸送するようすを撮影した写真を公開しました。またロイター通信などは13日、アメリカ軍が主要なセンサーや電子機器の部品などの重要な残骸を回収したと伝えました。

一方、アラスカ州の上空などで撃墜した飛行物体については残骸をまだ回収できておらず、アメリカ政府は回収作業を急ぐ考えです。

アメリカ軍は今月4日に、南部サウスカロライナ州の沖合の上空で中国の気球を撃墜しました。これについて、アメリカ国防総省は13日、残骸の回収作業のようすを撮影した写真を新たに公開しました。

写真は南部バージニア州のアメリカ軍の基地で撮影されたもので、アメリカ軍の兵士が回収した気球の残骸とみられるものを荷台に乗せて、分析拠点に輸送するために作業するようすが写っています。

オースティン国防長官は訪問先のベルギーで記者団に対し、アラスカ州やカナダの上空などで10日以降、3日連続で撃墜した飛行物体については、まだ残骸を回収できていないと説明しました。

アメリカ政府によりますと、これらの飛行物体の所属は依然として分からないということで、カナダ軍などと連携しながら回収作業を急ぐことにしています。

ロイター通信「軍が主要センサーなど重要な残骸を回収」

南部サウスカロライナ州の沖合で今月4日に撃墜された中国の気球をめぐり、ロイター通信などは13日、アメリカ軍が主要なセンサーや電子機器の部品などの重要な残骸を回収したと伝えました。

この気球をめぐっては、飛行中にアメリカ軍がU2偵察機で写真を撮影し、画像の解析から、通信などを傍受することができるとみられる複数のアンテナや、さまざまな情報を収集するセンサーを作動させるための太陽光パネルも備えていたことが分かっていました。

アメリカ政府は回収したセンサーや部品などを調べて、気球がどのような情報を収集していたのかなど詳しい解析を急ぐ方針です。

エスパー前国防長官「米の核関連施設などの情報を収集」

アメリカ軍が撃墜した中国の気球について、前のトランプ政権の時に国防長官を務めたマーク・エスパー氏が13日、NHKのインタビューに応じました。

この中でエスパー氏は、中国が気球を飛ばしているねらいについて「アメリカの戦略的核関連施設や核兵器が搭載可能な爆撃機が置かれている施設に関する情報をもっと集めたいと考えていることを示している。さらに、中国がスパイ活動をすると決定したもう1つの目的は、建国100年となる2049年までにインド太平洋地域を自分たちの思いのままにしたいと考えていることにありそうだ。このことは、米中関係をさらに悪循環に陥らせることになる」と指摘しました。

また、国防総省の高官がトランプ政権の時にも少なくとも3回、中国の偵察用とみられる気球がアメリカの上空で確認されていたと明らかにしたことについて、エスパー氏は「国防長官室にこの種のインテリジェンスに関する報告がもたらされたことはなかった。いずれも今のバイデン政権が過去にさかのぼって断片情報を集めて初めて分かったことだ」と述べました。

そのうえで、アメリカの領空で飛行物体が相次いで見つかっていることについて「アメリカはみずからの防御態勢を強化し、航空宇宙に一層の注意を払っていくことになる。今回、起きたことがすぐにまた起きないようにしなければならない。中国は明らかに他国から情報を集めようとしており、日本や、ほかの西側諸国もアメリカと同じように防御態勢をとることが必要になるだろう」と強調しました。

米専門家 “大統領 批判も意識して速やかに撃墜指示か”

アメリカが中国の気球などの飛行物体を相次いで撃墜していることについて、アメリカの保守系シンクタンク ヘリテージ財団で国際政治に詳しいナイル・ガードナー氏は、NHKのインタビューに対し「アメリカは中国に対抗している以上、アメリカ上空で中国がスパイ行為を行うことは許されないし、政府は必ず行動を起こすという明確なメッセージを出さなければならない」と述べて、中国に対して強い姿勢を示す必要があるという考えを示しました。

アメリカ軍が今月4日に南部サウスカロライナ州の沖合で中国の気球を撃墜したことをめぐり、野党・共和党などは「撃墜が遅れた」などとバイデン政権の対応を批判しています。

ガードナー氏は「バイデン大統領は政界や世論からの強い圧力を受けて行動している。最近の迅速な行動はこうした圧力を受けた結果だろう」と述べて、バイデン大統領が共和党内などの批判も意識して速やかに撃墜を指示しているという見方を示しました。

中国外務省報道官「アメリカは徹底調査し説明を」

アメリカの気球が中国の領空を違法に飛行しているとする中国側の主張に対し、アメリカ・ホワイトハウスの高官が全面的に否定したことについて、中国外務省の報道官は「アメリカは徹底した調査を行い、中国に説明すべきだ」と強く反発しました。

アメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は13日会見を開き、中国外務省が「アメリカの気球が中国の領空を違法に飛行している」と主張していることに対し、「中国領空を飛行しているアメリカの飛行物体はない」と述べて全面的に否定しました。

これに対し、中国外務省の汪文斌報道官は14日の記者会見で「アメリカの気球は去年5月以降、少なくとも10回余りにわたって、中国や関係国の領空を違法に飛行している」と改めて強調し、これまでの主張を繰り返しました。

そのうえで「アメリカは徹底した調査を行い、中国に説明すべきだ」と強く反発しました。

松野官房長官「よりいっそう厳正に対処」

松野官房長官は、閣議のあとの記者会見で「アメリカ側が中国側の主張を否定したことは承知しているが、現時点でコメントすることは差し控える。引き続き、関連の情報について注視・分析していく」と述べました。

また、国内で気球などの飛行物体が発見された事案について問われたのに対し「平素から警戒・監視に万全を期すとともに、大きな関心を持って気球の情報収集・分析を行っているが、収集・分析した情報の一つ一つについて網羅的に答えることは、情報収集能力などが明らかになるため差し控える」と述べるにとどめました。

そのうえで「公表の在り方については、国民への情報提供の重要性を十分に踏まえつつ、情報収集能力などが明らかにならないかといった点も含め、総合的に勘案して適切に判断していく」と述べました。

このあと松野官房長官は午後の記者会見で「気球の飛行も含めた諸情勢について大きな関心を持って情報収集や分析を行っていく。無人機や気球など多様な手段によるわが国領空への侵入のおそれが増す中、国民の生命・財産、そしてわが国の主権を守るため警戒・監視を切れ目なく行い、よりいっそう厳正に対処していく」と述べました。

林外相「アメリカの立場を支持 中国側が十分な説明責任を」

林外務大臣は記者会見で「いかなる国であっても他国の主権を侵害することは許されない。アメリカ政府は、中国側によって容認しがたい主権侵害が行われ、自国の主権や国民の安全を守るため、慎重かつ合法的に対処したと説明している。わが国はアメリカの立場を支持し、中国側が十分な説明責任を果たすことが重要だと考えている」と述べました。

その上で「中国も山東半島沖で正体不明の飛行物体を発見して撃墜する準備をしていると報じられており、引き続き関連の情勢を注視したい」と述べました。